永谷正樹の「モヤモヤするでいかんわ!」その2・「タダで出てください」がいちばんモヤモヤする

最初からあまり気乗りしなかった。
古くからつき合いのある店主から、
「行政が所管する公益財団法人がアジア大会に向けて、名古屋をPRするYouTube動画を制作するそうで、案内役として出演してくれる人を探しているらしいんです。そこでナガヤさんを推薦しておきました」
と言われたのである。
「名前が売れる」はギャラの代わりにならない
店主としては、私の名前が世に出て、少しでもメジャーになってもらえればという思いで紹介してくれたのだろう。しかし、この手の話に乗っかって、これまでよかったと思ったためしがなく、話半分に聞いていた。
あらかじめ言っておくが、私がテレビやラジオ、YouTubeに出演する場合、ノーギャラの案件は引き受けないことにしている。「ナガヤのくせに生意気だ」と思われる方もいるだろうが、私の話も聞いてほしい。
企画の中身も台本もすべて決まっていて、私は現場へ行って話すだけでよければ、ノーギャラでも引き受けないことはない。しかし、制作サイドが求めているのは私の「喋り」ではなく、フードライターとして持っている「情報」である。そうなると、企画の立ち上げから参画することになる。
私が雑誌やwebメディアで業務として行っていることを、ノーギャラでやれと言われてもできないのである。
ただ、動画拡散の目的が震災や豪雨などの災害復興であれば、ノーギャラであっても喜んで協力させていただく。何なら、カメラマンとして写真も提供するし、必要であれば撮影もする。これでも私は生意気だろうか。
それから1か月ほど経ち、忘れかけていた頃に公益財団法人から電話があった。少しややこしい話になるが、動画は某大手企業がスポンサーとなり、広告代理店が制作を請け負っているとのこと。公益財団法人は広告代理店から「出演できる人を探している」と頼まれ、私を紹介したのだ。
スポンサー企業がいるのにボランティア?
動画の概要は、指定された名古屋市内のエリアで3か所のおすすめスポットを紹介し、そのうち1つに私が出演するというもの。これまでテレビで何度も同じような仕事をしてきたこともあり、すぐに理解できた。
この動画はシリーズもので、これまでにも名古屋で著名なライターさんが出演したことがあると聞いた。
しかし、このオファーが仕事なのか、それともボランティアなのかについてはまったく触れられなかった。こちらから尋ねるのもイヤラシイ気がして、結局は聞かないまま電話を切った。
ただ、某大手企業がスポンサーになっている以上、紛れもなく広告案件である。だからこそ、広告代理店が仕切っているのだろう。
過去に出演した著名なライターさんは、ギャラに対してかなりシビアであると耳にしたことがある。そんな人がボランティアで出演するとは考えにくい。だから私も、まさかボランティアではあるまいと思っていた。
広告代理店の担当者から連絡があったのは、その約1週間後。
「このたびはご協力いただきまして、ありがとうございます」と、私が動画出演を快諾した前提で話を進めようとするので、
「まだ出演するともしないとも返事はしておりませんが」と、まずは釘を刺しておいた。
その上で、これは仕事としてのオファーなのか、それともボランティアなのかを尋ねてみた。そこがクリアにならなければ、話を聞いても仕方がない。
「ボランティアでお願いできれば……」と、担当者。
やはり、そういうことだったのか。某大手企業がスポンサーとなり、広告代理店は業務として関わっているわけで、動画を制作するディレクターやカメラマン、音声さんにも対価は支払われているはずである。
にもかかわらず、コンテンツの要となるネタ出しを担当する私はノーギャラなのか。例えるならば、家を建てるのに、大工さんや左官屋さん、電気屋さん、水道屋さんにはお金を払うけど、家を設計した設計士さんには払わないと言っているのと同じである。
地域に詳しい人の知見や人脈、専門性といったものが、「善意」や「協力」という名のもとで扱われてしまうことは少なくない。業務として請けている案件をボランティアでやらなくてはならない理由はいったい何なのか。
専門性には対価があって当たり前
そんなわけで、このオファーはお断りした。まぁ、私が出なくても、タダでも出て名前を売らんとするインフルエンサーやライターもいるだろうから、そういう人たちにお願いすればよいのだ。
ちょうどその頃、秋に出版される単行本の仕事が始まり、目が回るほど忙しく、愛知県の内外を取材と撮影で飛び回っていた。その移動中に広告代理店の担当者から再び電話があった。