取材先からの「有料でも構わないので写真を譲ってください」という申し出。使用料の最適解は? そして、第三者への貸与はアリか? ナシか? を考える

 フードカメラマン兼ライター(株式会社つむぐ代表)の筆者による写真を巡るコラム。今回は “泥棒” ではなく、むしろ良心的な人たちのお話です。
nameken 2025.08.09
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 白いものでもクライアントが「黒」といえば黒になる。そんな広告業界が嫌になって、23歳のときに広告制作会社を辞めた。もう金輪際、広告写真は撮らないと心に決めて、週刊誌や月刊誌などの出版メディアで仕事を始めた。

 フリーになったばかりの1990年代は、とにかく食っていくためジャンルを決めずに何でも取材した。食を自らのテーマとしたのは2002年頃から。グルメ情報誌『おとなの週末』で飲食店の取材をするようになったのがきっかけだった。

 毎月3、4軒の店へ取材に行き、写真を撮る。今よりもネットやSNSが普及していなかったため、雑誌が発売されると大きな反響があり、取材に協力してくれた飲食店の人たちはとても喜んでくれた。

 当時は私自身、写真の著作権者であるという意識が今ほどなかったため、雑誌の発売後に撮影した写真を飲食店のご主人にプレゼントしていた。ただし、

「新聞や雑誌、テレビ、webメディアなどへの貸与はご遠慮ください」と約束した上で。

 これは著作権に関係なく、「メディアとして名乗っているのであれば、現場にカメラマンを派遣して仕事をさせろ」という意味である。が、今は雑誌もwebも取材先から借りた写真を使って誌面を作ることが常態化している。プロのカメラマンによる撮り下ろしの写真よりもコスパを重視していることが実に嘆かわしい。

プロカメラマンが撮影した写真の訴求力

 先月、約1カ月にわたって某出版社が毎年発行しているラーメンの単行本の東海エリアにおける取材と撮影を任された。東海エリアとひと口に言っても、名古屋市内は少なく、豊橋市や岡崎市と遠方ばかり。遠いところでは静岡県伊豆市や伊東市、岐阜県高山市、福井県あわら市にも行った。行って帰ってくるだけで疲れてしまう、かなり大変な仕事だったが、久しぶりにガッツリと取材・撮影ができて楽しかった。

照明機材を使って撮影した写真(左)とスマホの写真(右)とでは訴求力に雲泥の差が出る

照明機材を使って撮影した写真(左)とスマホの写真(右)とでは訴求力に雲泥の差が出る

 昨年は店から写真を借りて、取材は電話で行っていた。店から送られてきた写真は、プロが撮ったものもあれば店のご主人がスマホで撮影したものもあった。

 クオリティの高い誌面とそうでない誌面が混在し、単行本としてページの統一感がなかったのである。今回すべて撮り下ろしにしたのは、売り上げにも影響したのだろうと推察する。プロカメラマンが撮影した写真には訴求力があるのだ。

 おっと、話を戻そう。写真をプレゼントした飲食店から

「ウチのメニュー写真を撮ってくれませんか?」と頼まれるようになった。広告写真は撮るまいと決めていたが、私の本業はメディアの取材・撮影であることや、仕事を請けたからといって便宜をはかる、つまり、優先的にメディアへ紹介するなどしないことを理解してもらった上で仕事をさせてもらっている。

使用料についての考え方と算出方法

 もう一つ、同じような話がある。雑誌やwebに掲載された写真を気に入ってくださり、

「有償でも構わないから譲ってほしい」という申し出がたまにある。以前であれば、タダでプレゼントしていたが、今はしっかりと使用料をいただく。写真を譲るとはいえ、著作権は私にあるのだから、使用料というのが正しいだろう。

 ただ、悩ましいのは、使用料の金額だ。安すぎてもプロとしてどうかと思うし、高すぎても思い上がりも甚だしいと思われるし。しかし、もともと撮影料は媒体からいただいているわけで、このオファーはボーナスのようなもの。

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