本のある河原ー-STATION Ai ヒントライブラリー選本記・石黒好美の「3冊で読む名古屋」⑪
2024年10月、名古屋市の鶴舞公園の南側に、愛知県のスタートアップ支援拠点「STATION Ai(ステーション・エーアイ)」が開設されました。日本最大級のオープンイノベーション拠点ということで、すでに約500社のスタートアップ企業と、トヨタ自動車などパートナー企業約200社が会員となっているそうです。
2階には愛知県にゆかりの起業家、産業偉人を紹介する「あいち創業館」という小さな博物館のようなスペースがあります。実は私、創業館の中の本棚「ヒントライブラリー」の本のセレクトと棚のキャッチコピーを作るお仕事を手伝わせていただきました。
STATION Aiの外観。カフェやフードコート、ルーフトップバーやホテルまで併設されており、オフィスエリア以外は誰でも利用できる=筆者撮影
起業の本来、あいちの未来
選本にあたっては、気鋭のテック系企業が集まる施設だから最新のビジネス動向が分かる書籍を、という意見も出なかったわけではないのですが、例えば生成AIの分野などにおいては昨日までの常識が覆されるような発見が日々なされているわけです。技術やビジネスの動向を追う書籍を置いても、すぐに古くなってしまいます。むしろ起業や経済の「本来」に立ち返ることで「将来」を見通せるような視点で本を選んでいこうとなりました。
さらにSTATION Aiのすぐ隣には県内トップの蔵書を持つ鶴舞中央図書館があります。大概の調べ事なら図書館に行った方がずっと早い。ではヒントライブラリーの本棚はどうあると良いのでしょう。選本チームで考えた結果、限られた冊数でも本の組み合わせや並べ方によってメッセージが立ち上がったり、意外な意味を見出せるようにしたいねということになりました。
STATION Aiの2階のあいち創業館内にある本棚「ヒントライブラリー」=筆者撮影
STATION Aiの施設全体のデザインコンセプトは「潮流」だと聞いたので、起業家を大海に漕ぎ出す「船」に見立てました。船のバラストとしての「地元・愛知」を知る本や経済のアーキタイプを考える本、エンジンとしての発想の型やコミュニケーションを深く豊かにする本を入れよう、と本棚に見出しを作りながら考えていきます。
『東と西の語る日本の歴史』は東日本と西日本の文化がせめぎあう境界としての「あいち」というトポスから何が生まれてきたのかを考えるきっかけに。知多半島総合研究所がミツカン創業家の『中埜家文書』を産業史・流通史・行政史などさまざまな視点から紐解いた資料も=筆者撮影
『インターネットの基礎』と対置するのは中世のネットワーカーとしての山や川に住んでいた非農業民。愛知で生まれその汎用性ゆえ世界に広がったQRコードの隣には、ひとりでは何もできない『弱いロボット』=筆者撮影
経済の棚は「贈与・イスラーム金融・資本主義問題」のセット。ヒントライブラリーはサクセスストーリーよりも「失敗」や「負」をプッシュしています=筆者撮影
創業館の産業偉人の展示とはちょっと違う視点から、あいちの「起業家」を紹介。鳥山明さんや宇野亜喜良さん、元BLANKEY JET CITYの浅井健一さんに、女性起業家の本もたくさん。鳥山明さんの画集は訪れる人がほぼ100%手に取る人気ぶり!=筆者撮影
そんなわけで、今月の3冊はヒントライブラリーの中から選びました。