川柳まさ裕の「写真週刊誌の記者が地方議員になるまで」③
2011年4月17日、岐阜・羽島市議会議員選挙告示日。
いよいよ選挙の初日である。まず、やることは、当日の朝、選管に誰かが行くことだ。印鑑を手に、事前審査時に封印された立候補届け出の用紙類を提出して、はじめて候補者となる。
そこで候補者になると、くじ引きが行われ、選挙ポスターの掲示板の番号が抽選で決まるのだ。誰もが右上の「1番」を狙うようだが、市内各所に設置された掲示板が高所にある場合もあり、ポスター係にとっては高ければ良いわけでもないという。
最後に、選挙の七つ道具といわれる「運動員の腕章」「街頭演説するときに掲げる標旗」「選挙カーや拡声機に付ける表示板」などを預かり、選挙カーの待つ選挙事務所に届けて、初めて「拡声器」の使用が許されるのだ。
こうして、人生初の「選挙」が始まった。いままで、出陣式やら街頭演説やら、たくさんの選挙のやり方を見てきて、知っていて、自分にもできると、簡単そうに思い込んでいた。
その誤りに気がつくのはマイクを持った第一声からだった。
初めての街頭演説に、言葉が出ない…。
街頭演説の第一声は人が集まるスーパーの交差点。
まずは、挨拶した。そして、「この場を借り、お騒がせいたします」との挨拶の続きまでは出た。問題はその次だ。
自分は、なにを訴えたいのか。
自分のなにを知ってもらいたいのか。
そして、どう支持を呼びかけるのか。
選挙に至るまでに「リーフレット」なる印刷物を作っていた。A4サイズの三つ折りのパンフレットで、写真や自己紹介、そして、市議になったら取り組みたい公約などをちりばめたものだ。
ちょっと話がズレるが、このリーフレットというもの。立派な政治的な印刷物であり、選挙中はもちろん、選挙の前でも配布することは「公職選挙法」に抵触する。ただ、公選法という法律も、しょせんは政治家が作った法律である。リーフレットの発行者は、例えば「〇〇後援会」。つまり、これは「候補者が自身への投票を呼びかけるものではなく、後援会の入会案内ですよ」という印刷物に位置づけられる。
だから、リーフレットには、政治へのスローガンや「未来ある市政」「市民といっしょに」「明日に向けて」など、ご立派なキャッチフレーズが並ぶ。
こうして、自分も作ってバラまいてきたリーフレットに書いてあるよう、政策や夢、希望や方針などをマイクで話せばいいのだけれど、文字を書くのと、内容は同じでも、声を出して空で話すのとは雲泥の差があることに気がつくのである。
政策の「棒読み」、取り組みたいことの「羅列」ばかりが口に出て、聴衆に対して、何をしゃべっているのかさっぱりわからなくなり、「あの」「その」の繰り返し。
これでは、演説で「自分」の気持ちを訴えるどころか、「だいじょうぶか、あいつ」と思われる。
政治の取材、選挙の取材で、何十、何百回と、候補者や政治家の演説を聞いてはいたが「演説をナメていた」自分に気づくのである。
名古屋市議会リコールなどに伴う歴史的な「トリプル選挙」で街頭に立つ名古屋市長の河村たかし氏と愛知県知事の大村秀章氏。当時から本当に仲良くやっていたのかどうかは分からないが、有権者へのアピールの仕方はさすがであった(2011年1月9日、川柳まさ裕撮影/NAMEDIA)