石黒好美の「書く福祉」【特別編】そういうお前はどうなんだ――NPOをディスっていた人がNPOの事務局長になる話

 ライター/社会福祉士の筆者がモヤモヤした福祉界隈を中心に書くエッセイ。今回は自分の身の振り方を明かす特別編です。
nameken 2026.04.12
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 この4月から就職しました。2016年にそれまで勤めていた会社を辞めてフリーランスになり、2017年から業務委託というかたちでさまざまなお手伝いをしていたNPO法人ささしまサポートセンターで常勤職員として働いています。名古屋でホームレス状態にある人や生活に困窮している人を応援する団体です。

 そういうわけで、少し寂しいけれどライターのお仕事はこの春からいったんお休みにして(なメ研のニュースレターは書かせていただける限りは頑張ります)ささしまサポートセンター(以下、SSC)のお仕事に邁進してゆく次第です。今回は私の10年ぶりの勤め人生活について書こうと思いますが、記事の内容は私個人の見解に基づくものであり、所属組織を代表するものではありません。

ささしまサポートセンターは1976年に国鉄名古屋駅構内で野宿していた日雇い労働者の方におにぎりを配る活動から始まり、以来、野宿者や生活困窮者の暮らしを応援してきました。写真は名古屋の支援団体と協同して行う年末年始の越冬活動の様子。ささしまサポートセンターは主に医療や生活に関する相談を担当しています(筆者撮影)

ささしまサポートセンターは1976年に国鉄名古屋駅構内で野宿していた日雇い労働者の方におにぎりを配る活動から始まり、以来、野宿者や生活困窮者の暮らしを応援してきました。写真は名古屋の支援団体と協同して行う年末年始の越冬活動の様子。ささしまサポートセンターは主に医療や生活に関する相談を担当しています(筆者撮影)

ささしまサポートセンターの事務局長になりました    

 なぜ急に就職することになったかというと、理由はいろいろあるのですが、やはり今年2月に公表した不祥事は大きなきっかけになりました。

 生活保護を受給している方の家計管理の支援で、あろうことか利用者の金銭の所在を不明にしてしまったという事件です。遡れば1970年代から50年に亘って社会的に弱い立場に置かれた人たちの暮らしや尊厳を守る活動をしてきた団体が、重大な権利侵害とも言える事態を引き起こしてしまったことを、とても重く受け止めています。

 SSCはこの事件を受けて抜本的な組織運営の見直しに着手し、その一環として事務局長を交代することとしました。平たく言うと私が新しい事務局長になります。新入職員が事務局長でいいのかと思われるかもしれませんが、業務委託というかたちであったとはいえこの9年間、団体の広報や事務、イベントの運営、メールの対応から事務所のゴミ出しまでやっており、かつこの半年くらいはなんだかんだでほとんど毎日SSCの仕事をしていたのでした。

お金じゃないのよNPOは

 私はかつて、NPOの不祥事について辛辣に非難する記事やブログを書きまくっていた人です。特にあいちコミュニティ財団に対してはしつこく何本も書いています。

 いま読み返しても、なぜこんなに執着していたのかと思いますが、当時は許せなかったのだと思います。

 ちょうど私が独立したばかりの頃、2017年頃からでしょうか。NPOの活動にも成果主義を取り入れようという動きが活発になっていたのです。やれ休眠預金活用だ、社会的インパクト評価(NPOの活動が社会に与えた成果を定量的に測ろうとするもの)だといったものが持ち上げられ、「社会貢献度が高い」とか「成果が見えやすい」活動や団体に助成金を多く分配しようとか、投資を呼び込もうという機運が高まっていました。NPOもきちんと資金調達して事業を改善し、さらなる社会課題の解決を目指していこうという考え方です。

 一方では、すぐに結果が出づらい活動や、金銭に換算しづらい活動や、多くの人の共感を得づらい(けれど必要な)活動をしている団体が公的な助成を受けづらくなるのではないかと危惧する人もたくさんいました。スマートにPDCAのサイクルを回せるNPOはほんのひと握りで、多くはボランティアが知恵と時間と手間を持ちよって高齢者や障害者のケアをしたり、子ども食堂をしたりしている小さな団体です。市民活動にまで資本主義の論理を導入してしまったら、こうした人々の尊さを損なうのではないか、細々とした助成金や寄付金まで削られて、活動の継続が難しくなってしまうのではないか。そんな懸念を表明する人たちもいて、私もこの立場でした。

 そもそもあいちコミュニティ財団が「成果」を求めるあまりに身の丈を超えた運営をして、応援してくれていた人たちの期待を裏切ってしまったわけですし。規模の拡大よりも、お金よりも、もっと大切にしなければならないものがNPOにはあるはず。素朴にそう思っていたのです。

お金じゃないのよ、とは言うものの……

 しかし、いざ自分が事務局長になってみるとどうでしょうか。職員はものすごく頑張っている。ボランティアさんの活躍はめざましい。それでも、毎日毎日何らかの切羽詰まった相談やら、こじれにこじれてこんがらがった相談が持ち込まれ、みんなでてんやわんやしてなんとか対応したり、力及ばず悔しい思いをしたり。やりたくてもできないこと、やったほうがいいのに手がつけられないことばかり。この職員の頑張りに報いられるだけのお給料が出したいし、事務所もいよいよ手狭になってきた。けれどお金がないのです。

 正直に言うと私、休眠預金とかふるさと納税を使ってNPOが資金調達するのってすごく軽蔑してたんですよね。まあ、過去にはSSCも背に腹は代えられず休眠預金の助成は受けたんですけど。でも、やっぱりそれって本来じゃないよね、思いを同じくして寄付してくれる人たちと一緒に、コツコツと共同体自治でやっていくべきだよねって。

 じゃあ、今のやり方で本当にいいの? スタッフにも報いられていなくて、思い描くような活動もできていないなら、寄付者に対しても報いていないんじゃないの? 経済なき道徳は寝言なんじゃないの? と、今にして初めて経営者の苦悩が実感できたのでした。

生活の中から生まれる言葉

 事務局長にはなったものの、私に特段の運営のノウハウがあるわけでもなく、もちろん団体の苦境を乗り切る妙案があるわけでもありません。ならば、まず自分ができることは何だろうと思い、全国こども福祉センターの荒井さんの本を参考に、SSCの現場にコツコツ顔を出して一緒に活動することにしました。今まではバックオフィス的な業務で手一杯だったのですが、せっかく専業、常勤職員になったことだし、新入職員らしくまずは先輩職員に教えを乞うべきだと考えたのです。

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