石黒好美の「書く福祉」・誰に、何によって覚えられたい団体か

ライター/社会福祉士で生活困窮者支援のNPO法人事務局長の筆者が、福祉の現場のリアルを発信します。
nameken 2026.06.13
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 私は、文章が上手いからライターの仕事ができていたわけではないんです。

 自分が書いたものを読み返すと、論理は矛盾しているし、流麗なレトリックがあるでもなく、まわりくどかったりしつこかったり、粗ばかり目について落ち込みます。

 ではクライアントは私の何に期待しているかというと「着眼点がおもしろい」「その発想はなかった」みたいなことなのだと思います。あるいは、みんなが当たり前だと思っていることや、触れないでおこうとしていることに対して「でも、王様は裸ですよね?」と言ってしまうような怖いもの知らずぶり、でしょうか。

 ライターといっても私のような芸風の人もいれば、夢のように美しい文章を書く人もいます。なメ研究のメンバーを見ても、じっくりとした調査報道で読ませる関口さんのようなジャーナリストもいれば、店主やシェフとのやりとりまで豊かな滋味に変える「読む食欲増進薬」みたいなフードライターの永谷さんもいるわけで、本当に一人一派というか。いろんなあり方、やり方があるのだなと思います。

 サラリーマンを辞めてフリーランスになるかどうか迷っていたときに「自分は何によって覚えられたいか」を考えるといい、とアドバイスされたことがあります。ドラッガーの言葉だそうですが、「緻密なロジックで論を展開する人」なのか「面白いことを書く人」なのか、はたまた「地道で堅実な仕事ぶり」の人だと思われたいのかを考えることが、これからの働き方や仕事の方向性を考えることにもなる、と。なるほどと強く感じました。

 いま、ささしまサポートセンター(SSC)というNPO法人の事務局長になって、「うちの団体は、誰に、何によって覚えられたいのかなあ?」と思いながら過ごしています。(記事の内容は私個人の見解に基づくものであり、所属組織を代表するものではありません)

ささしまサポートセンターの事務所(名古屋市中村区)です=筆者撮影

ささしまサポートセンターの事務所(名古屋市中村区)です=筆者撮影

活動の属人化は悪いこと?

 そんな中で、室谷明津子著『ルポ 支援という生き方――貧困問題の最前線』(ちくま新書)を読みました。「つくろい東京ファンド」という、東京でホームレス状態にある人たちを支援する団体の活動のルポルタージュです。

室谷明津子著『ルポ 支援という生き方――貧困問題の最前線』(ちくま新書)

室谷明津子著『ルポ 支援という生き方――貧困問題の最前線』(ちくま新書)

 ネットカフェなどに泊まり、タイミーなどのギグワークでその日をしのぐ人たちと、ITを駆使してつながる佐々木大志郎さん、ほとんど何の制度も使えず四苦八苦しながら難民の支援に取り組む大澤優真さん、群馬県桐生市の非人道的な生活保護行政の実態を暴いた『桐生市事件: 生活保護が歪められた街で』(地平社)の著者で、ライターでもある小林美穂子さんといった「つくろい」スタッフの奮闘ぶりが詳細に描かれています。

 つくろい東京ファンドはこうしたスタッフの興味関心に合わせてそれぞれが自由に活動する一人親方の集まりのような組織だそうです。代表の稲葉剛さんも「何かあれば私が責任を持つ形にはなっている。でも日々の対人支援やソーシャルワークについては、一人ひとりが自分で考え、進めている」と言っているのですが、これはSSCも同じだなと思いました。トップダウンで「こういう活動をしよう」と決めたことはほぼなく、夜回りも炊き出し会場での相談も、アパート訪問も子どもの支援も障害者グループホームも、メンバーの誰かが「やりたい」と言って始め、そのまま続いているものです。

 組織が大きくなるにつれ、そのことを「属人的だ」とか「縦割りだ」と批判されることもあり、それじゃダメなのかなあと不安になっていたのですが、無理にまとめようとしなくてもいいのかな。多少バラバラでも、ゆるやかに繋がりながら、それぞれのメンバーがストレスなく、その人らしさを生かしながら活動できればそれでいいのかなと、ちょっと自信が持てました。

 また、稲葉剛さんは「炊き出しや夜回りはやることがハッキリしていて、初めてボランティアをする人にも参加してもらいやすい。けれど『つくろい』のように住まいの確保やその後の生活に伴走する支援はハードルが高く、関わってくれる人を集めにくくなっている」という話にも、頷き過ぎて首が100回もげました。

 SSCも「炊き出し(食事の提供)」自体はやっていなくて、炊き出し会場の隅っこを借りて「相談」をやっています。とはいえほとんど相談らしい相談がなく、炊き出しの丼を頬張る人と世間話をするだけ……みたいな日も少なくありません。でも、なんてことない世間話や、しょうもないバカ話をすることって、実は「信頼関係を作って、いざというときには相談しようと思える団体になる」ための重要なプロセスなんです。けれど「貧困問題をなんとかしたい!」「困った人の役に立ちたい!」と熱い思いを持って現場に来た人ほど、物足りなさを感じてしまうんですよね。

 一方では、のらりくらりと雑談していたら、ものすごく大変な状態にあることが分かり、いきなり深刻な相談になることもあります。こうなると、話の中から課題を切り分けて整理するアセスメント力や、どの支援機関や行政の窓口に繋ぐべきかという知識、はたまた同行した相談窓口での交渉力や胆力が求められることになり、やる気はあっても初心者にはハードルが高く、ここでもまたボランティアさんが離脱しがちという難しさがあります。

炊き出し会場での相談には医師や看護師のボランティアもおり、健康相談もできる=筆者撮影

炊き出し会場での相談には医師や看護師のボランティアもおり、健康相談もできる=筆者撮影

こども食堂は誰と「つながって」いるのか

 そんな中、「しろうと(アマチュア)」の参加を非常に重視し、かつ大きな成果を出している活動があります。「こども食堂」の取り組みです。

 かつて稲葉剛さんと一緒に「自立生活サポートセンター・もやい」という団体を立ち上げ、リーマンショック時の「年越し派遣村」をリードした湯浅誠さんは、全国の「こども食堂」を支援する活動を始めました。「こども食堂」とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂で、主に地域住民やボランティアによって運営されています。最初は貧困家庭の子どものために食事を提供しよう、ということで始める団体が多いのですが、今では家庭の経済状況にかかわらず、子どもから高齢者まで集う地域の多世代交流の場であったり、親が子育ての悩みを話したりしてちょっとひといきつけるところ、といったさまざまな機能を持っています。

湯浅誠著『つながり続けるこども食堂』(中央公論新社)

湯浅誠著『つながり続けるこども食堂』(中央公論新社)

 湯浅さんの著書『つながり続けるこども食堂』(中央公論新社)を読むと、さまざまな人が各地で予算もない中、創意工夫して食事をつくり、「誰でも来ていいよ~」と地域の人との交流を楽しみながら、「ちょっと気になる」タイプの子を気にかけ、帰りにちょっと余分におにぎりを持たせる……といったさりげない気遣いで、孤立しがちな家庭と接点を持っていこうとする取り組みが展開されていることが分かります。

 やることが明確で(食事を作って出す)、すぐに達成感が得られ(おいしい!とか言ってもらえる)、それぞれの人の特性に応じた役割が何かしらある。(料理が得意な人は調理を、そうでもない人は子どもと遊んだりとか)生活保護申請に同行して役所の窓口で水際作戦と対決する、という活動に比べたら、参加のハードルは確かに低いし楽しそうです。(生活保護申請の同行もめちゃくちゃやりがいありますけどね!)

団体の「外側」とどう関わるか

 稲葉さんも湯浅さんも、最初は路上で生活していた人の住まいの支援から活動をスタートしています。稲葉さんは現在まで一貫して生活困窮者の直接支援に関わり、そこから見えてきた制度のほころびや、「いのちのとりで裁判」をはじめとする政治の不正を厳しく追及する活動を続けています。

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