コミュニティ財団って、もうダメなのかなぁ? その①・何が起こっているのか【石黒好美の「3冊で読む名古屋」】
「一般社団法人全国コミュニティ財団協会」が、助成金の獲得にあたり、2016年から2018年の間、虚偽の会計書類を作成していたことが発覚した。団体は過大に受け取っていた分の助成金の返還を決めたが、全国のコミュニティ財団にとってリーダー的な役割を果たしていた団体の不正は、各地の財団やNPOに大きな衝撃を与えた。「その①」ではこれまでの経緯をまとめ、なごやメディア研究会の読者、なメ子さんにも分かりやすく解説する。
コミュニティ財団は「マンション型」
なメ子:そもそも「コミュニティ財団」って、何?
石黒:財団というと、「ロックフェラー財団」とかさ、大きな企業や大富豪が持っていて、潤沢な資金の中から奨学金を出したり、大学や美術館に寄付したり、発展途上国に医療や生活インフラを届けたりする団体、というイメージがあるよね。
でも、財団が作れるほどのお金持ちじゃなくても、何か地域の役に立ちたいとか、地元で頑張っているNPOに寄付したいけど、どこに寄付していいか分からない、と考える人や企業もある。そういう人たちから少しずつお金を集めて、寄付や助成金というかたちで地域の団体を支援する財団が「コミュニティ財団」と呼ばれているの。
「一戸建て型財団(企業財団やプライベート財団)」と「マンション型財団(コミュニティ財団)」のイメージ。「コミュニティ財団」の中にはさまざまな基金(小型の財団のようなもの)があり、それぞれ違う使い道(団体、活動への助成)がある。イラストは『コミュニティ財団のすべて』(三島祥宏・著/大阪コミュニティ財団・編 清文社)より引用
企業財団や個人が持っているプライベート財団は「一戸建ての家」みたいなもの。単独の家主(寄付者)の意向に合わせて助成を行う。
対するコミュニティ財団は「マンション型」。部屋ごとに寄付者が違って、使い道もそれぞれ。日本で「一戸建て型」の財団を作ろうとすると、最低でも300万円は用意して、他にも職員の人件費やら事務所家賃やら……とお金も手間もすごくかかる。
なメ子:寄付者からすると、一戸建ては買えなくても、マンションの部屋を借りるくらいの気持ちで「小さい財団」みたいなものが持てちゃうってことね。
石黒:部屋(基金)には寄付者の名前を付けることも少なくないみたい。兵庫県の「ひょうごコミュニティ財団」だと「有園博子基金」とか。
基金ごとに「DVや性暴力の被害者を支える活動に使う」「子どもへの医療的な支援」「多文化共生や外国人支援」とテーマが決まっているのね。助成金額は企業財団と比べたら少ないかもしれないけれど、地域密着だからこそできるニッチな分野への支援や、小回りをきかせた対応ができる、とも言えるんじゃないかな。
なメ子:少しのお金や時間しか持っていない人でも、コミュニティ財団を通して地元で本当に必要だと思える活動を応援できるんだ。
石黒:東日本大震災のあと、地域で助け合いながら暮らしていくことの大切さを感じた人たちが増えたことも影響しているのかな。2010年代の初め頃から、全国でコミュニティ財団を設立する動きが盛んになっていったんだよね。
CFJ自身も不正を認める
なメ子:じゃあ、どうして「コミュニティ財団ってもう、ダメなのかなぁ?」なんて言ってるの?
石黒:「一般社団法人全国コミュニティ財団協会(以下、CFJ)」という団体が、2016年から2018年の3年間、虚偽の会計書類を作成して日本財団から助成金を過大に受け取っていたことが分かったの。
なメ子:ややこしいね。コミュニティ財団協会が、日本財団から活動資金を助成してもらっていたの?
石黒:CFJは当時各地で生まれつつあった「コミュニティ財団」の全国組織として2016年に発足した、いわば業界団体だよね。歴史も浅く、企業財団のような後ろ盾もないコミュニティ財団どうしがつながって、研修をしたり財団運営のガイドラインを作ったり、これから新しくコミュニティ財団を作りたい人たちの立ち上げの支援をしたりもしていたみたい。
でも、そのためには当然CFJにもお金がいるよね、ということで、日本財団から助成を受けた、と。
なメ子:ベンチャー企業が、似た事業を展開している大企業から出資を受けた、みたいな感じ?
石黒:ちょっと違う気もするけど、まあそう言ってもいいのかな……。とにかく財団どうしでもお金のやり取りがあって、その際、CFJは虚偽の書類を作って虚偽の報告をしていたんだよね。
日本財団は、執行されていない人件費や業務委託費の一部が事業費に計上されていたとして、CFJに対して合わせて34,513,000円の返還を求めていて、CFJもこれを承諾しています。
なメ子:えっ、3000万円以上も⁉
でも、コミュニティ財団って要するに社会貢献のための団体でしょう? 「虚偽の会計書類を作成して」なんて、言い過ぎじゃない? うっかり間違っちゃったとか、規定を勘違いして解釈していたとか、そういう可能性もあるんじゃないの?
石黒:だって、CFJ自身が「虚偽の会計書類を作成し、日本財団に虚偽の報告をした」って認めているんだもん。
「<ご報告>日本財団助成事業における不適切な会計処理について」内の、CFJの顧問弁護士による「報告書」より抜粋。強調は筆者による
なメ子:本当だ。「報告書」を読むと、日本財団による監査で会計書類の内容に問題があると分かったのは2022年6月29日。なぜ2年近くも経った今、話題になっているの?
石黒:日本財団が最初に助成金の返還を求めたのは2018年の事業だけだったんだけど、これを受けて2016年、2017年分の助成事業についてもすぐに監査をやり直した。その結果、3年分すべての事業の助成金の返還を求めることが明らかになったのが2023年10月23日。
なメ子:なるほど。すべての助成事業について、事実が明らかになったのはもう少し後なんだ。
石黒:でも、CFJって、全国のコミュニティ財団を指導する立場でもあるんだよね。コミュニティ財団の社会的な信用を高めるべく、各財団のガバナンスやコンプライアンスを強化していこうと呼びかけていた。
実は2016年から2018年って、まさに「あいちコミュニティ財団」が残業代の未払いや、職員に対するパワハラで大問題になっていた時期なんだよ。CFJはこの時も「コミュニティ財団のガバナンスの強化に努める」という声明を出しているし、翌年に寄付金の流用を疑われる記事が出た際には、あいちコミュニティ財団を中部ブロック代表から解任するという処分を下しているんだよ。
なメ子:石黒ちゃんのこの記事だね。
残業代の未払いやパワハラはともかく、「流用」は違法ではなかったんだ。それでもあいちコミュニティ財団は関係者に説明して、謝罪もしているんだけど……、CFJさんのコメントはなかなか厳しいね。
石黒:そんな団体が自ら「虚偽の報告」をして、しかも日本財団がリリースを出すまで公にせず、第三者委員会を設置して調査を始めると決定したのがさらに半年後の2024年3月、というのはさすがに遅いよね。
実は、各地のコミュニティ財団やNPOに関わる人の中には、昨年10月の日本財団のリリースを見て、理事会や監事が議論を尽くし、財団内部や寄付者との間で丁寧なコミュニケーションをして、自発的にこの問題に関する情報を開示していくべきだとCFJに強く勧めてきた人たちもいた。それでもCFJは明確な説明をせず、一度は資金返還の顛末について発表したもののすぐにサイトからその文書を取り下げるなど、言い分も二転三転しているようなんだよね。
もう自浄作用に期待できないと判断した人たちが、その名も「市民セクター全体の信頼性向上をいっそう進めていきたいと考える有志の会」として、CFJに適切な説明責任の遂行と信頼回復に資する対応を求める要望書を4月初めに提出。同時にWebでも要望書を公開し、このことがやっと広くNPO界隈にも知られるようになった、という流れなんだよね。