永谷正樹の「俺の写真をパクるな!」その7・呆れた答弁書と拍子抜けの裁判
私の写真をグルメ情報サイトなどで無断使用した居酒屋の運営会社を相手に起こした少額訴訟。裁判が開かれる11月27日(水)が目前に迫った11月22日(木)、相手方弁護士が作成した「答弁書」が裁判所からFAXで届いた。
ナガヤの写真、著作権フリーだってよ
「答弁書」とは、私が裁判所に提出した「訴状」に対する相手方の言い分をまとめた書類のことだ。読んで、思わず目を疑った。結論から言うと、相手方の言い分は以下の通り。
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
つまり、真っ向から争うということである。ウソだろ。あり得ない。泥棒をしておいて、その証拠もバッチリ揃っているというのに「やっていない」とシラを切っているのと同じではないか。
答弁書にはその理由についても書かれていた。
この写真について原告が著作権を有している事実はないと考えられる。
この写真は、一般に市販されている通常の「◯◯◯(料理名)」を撮影したにとどまる写真であり、「文化的な創作物である著作物を制作した」というものではないから、著作権法による保護の対象ではないと考えられる。
また、著作権法による著作権の登録もされていない。
私が試行錯誤してライティングを考え、アングルや構図に工夫を凝らして撮影した写真を「一般に市販されている通常の「◯◯◯(料理名)」を撮影したにとどまる写真であり、「文化的な創作物である著作物を制作した」というものではない」と主張しているのだ。
この弁護士にかかれば、土門拳の『古寺巡礼』も「通常の仏像を撮影したにとどまる写真」であり、アンセル・アダムスの風景写真も「目の前にある風景を撮影したにとどまる写真」であり、「著作権法による保護の対象ではない」ことになってしまう。
土門拳やアンセル・アダムスは大げさかもしれないが、私を含めて商業写真でメシを食っているカメラマンの写真は、すべて著作権フリー!
すげぇ斬新な法解釈(笑)。だから、私の写真はタダで使い放題。高いお金を払ってカメラマンなんか雇わなくても、ネットを開いて写真をコピペしまくればOK!
なわけないだろ!この弁護士、著作権法というよりも、著作権のことをわかっているのだろうか。
相手側が出してきた答弁書。呆れた主張が展開されていた
相手方弁護士の呆れた言い分の数々
さらに、「著作権法による著作権の登録」について調べてみたところ、文化庁のHPがヒットした。たしかに著作権の登録制度は存在し、文化庁が窓口になっているようだ。そのHPには以下のように書かれていた。
著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生し,その取得のためになんら手続を必要としません。ここが,登録することによって権利の発生する特許権や実用新案権などの産業財産権と異なる点です。著作権法上の登録制度は,権利取得のためのものではありません。
では,なぜ登録制度があるのでしょうか。
それは,著作権関係の法律事実を公示するとか,あるいは著作権が移転した場合の取引の安全を確保するなどのためです。そして,登録の結果,法律上一定の効果が生じることになります。
注目すべきは冒頭の部分。
「著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生し、その取得のためになんら手続きを必要としません」とある。さらに「著作権法上の登録制度は、権利取得のためのものではありません」とも。
これがこのまま答弁書に対する私の言い分となる。しかし、まぁ、こんなことは著作権の基本中の基本ではないか。「一般に市販されている通常の「◯◯◯(料理名)」を撮影したにとどまる写真」に著作権はないというのは珍説以外の何ものでもない。
さらに答弁書にはこんな言い分も。
この写真は、サイトに被告の従業員が掲載した写真であるが、そもそも「著作権がある写真かどうか」、「◯◯◯(私に撮影を依頼した店)の商品」かどうかという認識すらなかった。
出た! 著作権の裁判にありがちな「知らなかった」という言い訳だが、残念ながらそれは通用しない。例えば、制限速度40キロの道路を80キロでぶっ飛ばして「知らなかった」と言えばキップを切られないのだろうか。
「そもそも認識すらなかった」のではなく、写真にはそれぞれ著作権があり、無断で使用すると著作権侵害になることを「認識させる」、つまり、コンプライアンスを遵守させるのが企業の経営者としての務めではないのか。
そして、私が少額訴訟に踏み切ったいちばんの理由である、弁護士からの連絡を悉く無視した理由についても書かれていた。
被告は、著作権侵害の事実がないこと及び原告の金銭請求が過大なことから、原告の請求には応じられず、回答をしなかったにすぎない。
そりゃ話し合いのテーブルに着かせるために請求する金額も大きくしますよ。応じられなかったら、そのように回答すればよいだけの話である。裁判でこんな言い分が通ると思っているのだろうか。答弁書を読んで、裁判でフルボッコにしてやる!と闘志に火がついた。