写真週刊誌の記者が地方議員になって入院…川柳まさ裕の、まさかの闘病記②

 「生きています。しかも、元気です」
なごやメディア研究会 2023.09.23
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検査のためにさまざまなチューブにつながれた私。我ながら痛々しいその姿を鏡に映してスマホで撮った(8月7日撮影)

検査のためにさまざまなチューブにつながれた私。我ながら痛々しいその姿を鏡に映してスマホで撮った(8月7日撮影)

 春先から続いた腹痛や胃部の不快感。痛みに耐えかね救急外来で下された診断は「急性膵炎」。治療とともに行われた精密検査で「膵頭部がん」の疑いがあるとして、地元の市民病院から名古屋大学附属病院へ転院したのは6月のことだった。

 転院当初は、医療連携による紹介状と市民病院における各種「検査」のデータをもとに、一刻も早い「手術」を行う計画で進められていた。

 手術といっても、腹部の手術のなかで「膵臓がんの手術」ほど厄介なものはないらしく、手術計画では、十二指腸と胆のう、脾臓、を取り除き、持ち上げた空腸にがんに侵されていない部分の膵臓をつなぎ合わせるという、聞いただけで卒倒しそうな手術である。

 興味のある方は「膵頭十二指腸切除」と呼ばれる膵頭部付近の腫瘍に対して行われる標準的な根治手術について検索していただきたいモノだが、そもそも “がん” が「他の臓器に転移がない」「膵臓に近い主要な血管に広がっていない」という条件が整わなければ適応されないと前置きされていた。

 しかし、大学病院へ入院してすぐ膵炎が再発し、激しい痛みと発熱に苦しみ、点滴と絶食による治療が続いたことは前回の闘病記に記したとおりである。

 13日間にわたる「絶食」と「検査」時のバイタルや痛みなどの感覚は、39℃台の発熱が続いていたときも克明にメモされていた。

 取材時にメモをとる癖は、もうろうとした意識の中でも残っていたようだが、書き漏らしていた医師や看護師のこぼした言葉が、スマホのGoogle Keepに残っていた。

 「膵炎がぶり返したため手術や検査を中止。治療に専念。珍しい」

 「初期の膵がんは診断が難しい。少し様子を見てみますか…」

 「膵臓がんの患者に特有の黄疸がないね」(主治医ではない回診の医師)

 「内科の先生から(手術に)慎重論がでていた」(外科の担当医)

 これら、ポツリ、ポツリと医師がこぼした言葉にどれほど心が救われたことか。それまでは、手術しない、あるいはできなければあと数か月の余命といわれ、未来を失い来月の予定さえたてられなかったわが身である。

***

 Google Keepには看護師の言葉も残っていた。両腕の静脈に点滴チューブを刺され、不自由さを訴えたとき、「あなたは立派な重症です‼」(重い急性膵炎の患者なので自覚せよ)と注意された。これが逆にうれしかった。


 「初期の膵臓がんにはほとんど症状がなく、膵臓が身体の奥にあるため病気の早期発見が難しい」というのが膵がんの一般的な考え方である。膵炎の激痛は苦しいけれど、はっきりした症状があるのがうれしかったのだ。


 こうして、「膵頭部がん」という最悪最低な “がん” の疑いが少しずつ軽減されていくポジティブな気分になった。

一般的な膵臓がん(膵頭部がん)を説明する図と、今回の私の「疑い」の仕組みを示す図

一般的な膵臓がん(膵頭部がん)を説明する図と、今回の私の「疑い」の仕組みを示す図


 8月4日、検査のために再入院。JR中央線・鶴舞駅で降り、名大病院へ向かう足取りも慣れたものになった。大学病院前の桜並木に鳴り響いていた蝉時雨も6月に比べ静かになっていた。


 今回は「ERCP」というのが主な目的。医学書によると「内視鏡的逆行性胆管膵管造影」といい、内視鏡(カメラ)を口から入れて食道・胃を通り十二指腸まで進め、胆管や膵管に直接細いチューブを介して造影剤を注入して、胆嚢や胆管及び膵管の異常を調べる検査。膵炎で膵臓が腫れているときにできなかったもので、これまでの検査結果を決定づける重要な検査である。


 そんな「ERCP」に加え「内視鏡的経鼻胆管/膵管ドレナージ(ENBD/ENPD)」という、膵管や胆管といった消化液が流れる管に細いチューブを膵臓内に留置させ、チューブを介して取り出した「膵液」を採取して細胞診検査することで、がんなどの病気の診断能力を向上させるとある。


 よろしければ、あなたのおヘソの上と、みぞおちの中間辺りをさすってみてほしい。ここに胃や十二指腸があり、その後ろ側に隠れるように膵臓があり、胆嚢とともに十二指腸につながり、十二指腸にある「穴」(十二指腸乳頭)から消化の役割をする「膵液」や「胆汁」を流し出す。


 この穴を内視鏡で見つけ出し、さらに細いチューブを穴に差し込み、膵臓の奥深くまで差し込んでおく。検査というより、熟練を要した医師にしかできない高度な手術といってよい。


 ゾッとするのは、この差し込んだチューブを鼻から出して、膵臓が作り出した「膵液」を体外で袋に貯めるのだ。鼻から入ったチューブは喉を通り、食道や胃を経て、十二指腸にある穴から膵臓に達する。検査前、これが数日続くと聞いたときには、絶えず「オえっ!!」とならないか!? 食事はどうするのか!? そもそも膵臓に負担をかける検査で、ふたたび膵炎がぶり返し、あの激痛と絶食を伴う治療が必要とされないか!?…不安ばかりだった。

今回、「膵液」を採取するために使ったチューブ。これを鼻から膵臓まで通された(8月8日撮影)

今回、「膵液」を採取するために使ったチューブ。これを鼻から膵臓まで通された(8月8日撮影)

***

 8月7日、そんな心配をよそに「ERCP」検査は時間通り行われた。胃カメラの検査に使う内視鏡よりどデカい、ホースのような検査機器が見えたかと思ったときには麻酔による眠りについていた。


 終わったと気がついたのは、口から伸びる細いチューブを、もういちど気管の近くに押し戻し、鼻を通して外に出すときだった。さすがに「おえっ!!」となって、涙は出るわ、口からは大量の唾液があふれ出すわ。医師団の「終わりました」という安どの表情から、「たいへんな検査だったんだなぁ」と改めて感じたものだ。


 鼻からチューブを出したまま、膵液は順調に体外へと流れ出していた。大学病院なので各種の研究に使うのだろう、採取した膵液は試験管に入れられ、医師が急いで持って帰っていった。


 無色透明。これが膵液だ。

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